2月のみかづき。

デブ・ロイ:初めて言えた時/言葉がうまれる時【1日1TED 言語/語学】

バイディー(こんにちは)

言語テーマの今週最後のスピーチは、デブ・ロイの「はじめて言えた時/言葉のうまれる時」です。これまた、もの凄いスピーチです。

(原題:Deb Loy "The Birth of a Word") 

1. どんなスピーチ?

スピーカーのDeb Royは、認識科学者 (Cognitive scientist)です。MIT Labにて、子供の言語取得の過程や、人間のように話すロボットについての研究を行っています。

Deb は自身の息子が生まれてから、自宅の全室にビデオカメラとマイクを取り付けて、約3年間、25万時間 ( quarter-million )に渡って、自宅で起こった行動や話された言葉のを記録し続けました。

今までで作られた中できっと最長のホームビデオ全集 ( longest home video collection ever made )とも言える、この膨大なデータを元に、最新のデータ解析技術を用いて、赤ん坊がどのように言葉を学んでいくのかに迫ります。

スピーチの中で、実際に赤ん坊が "water"という言葉を言えるになる瞬間を音声で聞くという、ものすごく感動的な瞬間を体験できます。

 

2. スピーチの抜粋

 スピーチのはじまりは、こんな夢のようなイマジネーションから。

Imagine if you could record your life -- everything you said, everything you did, available in a perfect memory store at your fingertips, so you could go back and find memorable moments and relive them, or sift through traces of time and discover patterns in your own life that previously had gone undiscovered.Well that's exactly the journey that my family began five and a half years ago.

(もしあなたの人生を記録することが出来たら・・・と想像してみてください。あなたが言ったことや、やったこと全てが、完全な記憶としてあなたの手元に残るのです。それによって、いつでも思い出の瞬間に立ち戻って追体験する事が出来るとしたら。また、時間の流れを調べて、今まで分からなかった自分の生活スタイルのパターンが分かるとしたら・・・。
これは、まさに私たち家族が5年半前にはじめた試みなのです。)

 

想像のものかと思ったら、なんとテクノロジーの力で実現されていたのです!

1日8-10時間、家中で画像と音声を記録するという壮大な実験のはじまりです。その中で、ぜんぶで 700万もの言葉が録音されたといいます。

その言葉のデータを用いて、「言葉が生まれる瞬間」を再現します。

 

So you've all, I'm sure, seen time-lapse videos where a flower will blossom as you accelerate time. I'd like you to now experience the blossoming of a speech form. My son, soon after his first birthday, would say "gaga" to mean water. And over the course of the next half-year, he slowly learned to approximate the proper adult form, "water." So we're going to cruise through half a year in about 40 seconds. No video here, so you can focus on the sound, the acoustics, of a new kind of trajectory: gaga to water.

(皆さんは、時間を早送りにして、花が開花する瞬間を映したビデオを見たことがあると思います。今日は、”言葉が開花する瞬間”を皆さんに体験してもらいましょう。私の息子は、1歳の誕生日のすぐあとに、"water"を"gaga"というように口にし始めました。そのあと半年間に渡り、彼の"gaga"はゆっくりと大人が発音するような正しい "water"に近づいていきます。それでは、その半年間を40秒で体験してみましょう。画像はありません。それは、皆さんに音に注目してほしいからです。"gaga"から"water"へ、”新しい形の言葉の軌道”をどうぞお聞きください。)

 

これは何とも言葉に出来ないのですが、最初は"gaga"だったものが、少しずつ戻ったりもしながら、最後にパッと "water"になるのです。

何度も何度も繰り返して、大人の反応をみて、もう一度やってみて、やっと "water" になる。すごい。まさに、言葉が開花した瞬間です。

 

そして、この膨大な言葉のデータは色んな形で解析されています。別の疑問は、「それぞれの言葉は、どのタイミングで習得されるのだろう?」ということです。

それぞれの言葉が大人によって、赤ん坊の前で話された際の会話の長さを、会話の複雑さとして捉えてデータ化しました。そうすると、下向きの曲線があらわれるのです。

大人はまだ言葉を理解していない赤ん坊の前で話すとき、まず複雑な会話の流れでその言葉を使い、1度よりシンプルな会話の中で使い、また複雑な会話の中で使う・・・ということを無意識にしているそうです。

 

And what we found was this curious phenomena, that caregiver speech would systematically dip to a minimum, making language as simple as possible, and then slowly ascend back up in complexity. And the amazing thing was that bounce, that dip, lined up almost precisely with when each word was born -- word after word, systematically.

(私たちはとても興味深い現象を発見しました。赤ん坊の面倒を見ている大人たちは、自動的に言葉を出来る限りシンプルなものに1度置き換えるのです。そしてそのあと、ゆっくりとまた難しい表現へと戻るのです。この素晴らしい反動の瞬間が、まさに言葉が生まれる瞬間と一致しているのです。)

And the implications of this -- there are many, but one I just want to point out, is that there must be amazing feedback loops.

(つまり言葉の誕生の瞬間にはには、この驚くべきフィードバックループがあったのです。)

 

このような曲線の状況をフィードバックループ、と呼んでいますが、赤ん坊はこのループによって言葉を学んでいくと。

またその他にも、言葉とその言葉が使われる場所や、その状況のデータを集めて解析した結果なども紹介されています。

 

そしてこの研究は、家の中に限らず、社会上のメディアとそれに対する反応・使われている言葉などの繋がりの研究へとも繋がっています。

どんなコンテンツが、どんな言葉を生み出したり、引き出しているのか。また、その言葉がさらにどんな風に繋がっているのか。

実際のデータ解析の映像は、圧巻です。

 

 So, to summarize, the idea is this: As our world becomes increasingly instrumented and we have the capabilities to collect and connect the dots between what people are saying and the context they're saying it in, what's emerging is an ability to see new social structures and dynamics that have previously not been seen. It's like building a microscope or telescope and revealing new structures about our own behavior around communication. And I think the implications here are profound, whether it's for science,for commerce, for government, or perhaps most of all, for us as individuals.

(つまり、私たちの世界はどんどんと様々な機器につながってきていて、人々が何をいっているのか、それらがどんな文脈の中で使われているのかについての情報を集めて、それらの繋がりを見いだすことが可能になってきているのです。これによって、今まで見えていなかった、新たな社会的な構造やダイナミックスが浮かび上がってくるのです。これはコミュニケーションにまつわる私たち自身の行動を、覗き込むための顕微鏡を生み出しているようです。これらの発見は科学にとって、産業にとって、政治にとって、そしてきっと何よりも私たち個人にとって、深い意味を持つものだと思っています。)

 

テクノロジーが生活に密着している今。ものすごい量のデータが毎日、知らない所で集められています。そのデータを使うことによって、今まで知らなかった私たち人間や 社会の新しい姿が見えてくるのかもしれません。

スピーチの最後に、私たちはまた息子さんの思い出の場面に立ち会います。感動的、そしてほっこりするラストです。

 

3. 新しいことばたち

  • sift: ふるいにかける、精選する、精密に調べる
  • incandescent: 白熱の、まばゆいほどの、素晴らしい
  • unsolicited: 懇願されていない、要求をしないのに与えられた
  • (convert) this opaque: 不透明な、光沢のない、理解しがたい、不明瞭な
  • accoustic: 音の
  • "nail it!": (俗)〜をうまくやる、成功する
  • scaffolding: 足場(で支える)
  • semantic: 意味の、語義の
  • subset: 部分集合、一部

 

4. 感想

最初にこのスピーチを見た時、His speech really blowed my mind でした。データ解析とかよく分からないのですが、今もうこんなことが出来るんだって。すごい。。

前回紹介したこちらのスピーチなどでは、子供の脳、人間の中身を見ての研究について話されていますが、今回のスピーチは人から出た言葉や行動のデータを用いて、言葉が学ばれる過程を見ていきます。きっとまだまだこのデータを使って、色んな解析がされるんだろうなぁ。もっと解析結果知りたい!データの力に、圧倒されました。

そして、言葉の開花の瞬間、言葉が生まれるとき。この体験はすごいパワフル。ちょっと長いですが、是非体験してもらいたいです。

 

5. スピーチについて

Deb Roy: The birth of a word | TED Talk | TED.com

Event: TED 2011

Date: March 2011

Length: 19:45