2月のみかづき。

パトリシア・クール「赤ちゃんは言語習得の天才」【1日1TED 語学/言語】

 サバイディー(こんばんは)

1日1TEDの時間です。今週のテーマは「言語/語学」。

今日は、パトリシア・クールの「赤ちゃんは言語習得の天才」をご紹介していきます。

(原題:Patricia Kuhl: The linguistic genuius of babies ) 

1. どんなスピーチ?

「外国語を習うなら、赤ん坊の時に始めた方がいい!」「言語の臨界期を超えたら、バイリンガルになるのは無理」など、年齢と外国語学習・言語習得の関係性は、よく語られているけれども、何が本当なのかよくわからないところ。

スピーカーの Patricia Kuhl は、幼少期における言語習得と脳の発達の研究において、世界的に著名な研究者です。

そんな彼女が、言語取得の第一の臨界期である8-10ヶ月目の赤ん坊を対象にした様々な研究の結果とともに、なぜ赤ん坊は言語取得の天才であるのかを語っています。

 

2. スピーチの抜粋

まずは、よく見たことのある、年齢と言語習得の関係性を表したグラフが出てきます。

What we see here is a mother in India, and she's speaking Koro, which is a newly discovered language.And she's talking to her baby. What this mother -- and the 800 people who speak Koro in the world --understands is that, to preserve this language, they need to speak it to the babies. And therein lies a critical puzzle. Why is it that you can't preserve a language by speaking to you and I, to the adults? Well, it's got to do with your brain. What we see here is that language has a critical period for learning. 

(こちらはインドのある母親です。彼女は、つい最近知られる事になったコロという言語を、彼女の赤ん坊に向けて話しています。彼女や、コロを話す他の800人の人々は、言葉を継承していくためには、赤ん坊に話しかける必要があるということを知っています。

ここに、重要な謎が隠れています。なぜ言葉を継承するために、私やあなたのような大人に話しかけるのではなく、赤ん坊に話しかけるのでしょう?それは、脳との関係があります。このグラフに表されているのは、言語学習の臨界点を表したものです。)

The babies and children are geniuses until they turn seven, and then there's a systematic decline. After puberty, we fall off the map.No scientists dispute this curve, but laboratories all over the world are trying to figure out why it works this way.

(7歳になる前の赤ん坊や子供たちは、みんな言語習得の天才なのです。7歳を過ぎたあとは、その才能は次第に衰えていきます。思春期を過ぎると、もうこのグラフ上から消えてしまいます。このグラフについて、異論を唱える科学者はいませんが、世界中の研究所が、どうしてこのようになるのかを究明しようとしています。)

 

このグラフ、何度見てもちょっと落ち込みます。。。ここから、言語取得の第一の臨界期である8-10ヶ月目の赤ん坊を対象にした研究の具体的な説明に入っていきます。

赤ん坊に色々な言語の音声を聞いてもらって、音が変化したところで反応してもらう実験を世界中でした。その結果によると、私たちはみんな生後 7ヶ月までくらいは、「自分の言語」を決めずに、どんな言葉の音でも平等に聞き分けることができると。

 

Well, babies all over the world are what I like to describe as "citizens of the world." They can discriminate all the sounds of all languages, no matter what country we're testing and what language we're using, and that's remarkable because you and I can't do that. We're culture-bound listeners. We can discriminate the sounds of our own language, but not those of foreign languages. So the question arises: When do those citizens of the world turn into the language-bound listeners that we are? And the answer: before their first birthdays.

(世界中の赤ん坊のことを、私は「グローバル市民」と呼びたいです。世界中の国でどの言語を用いて実験を行っても、赤ん坊は全ての言語の全ての音を聞き分けることができます。これはもの凄いことだと思います。私たち大人には不可能なことです。私たちは、「文化に縛られた聞き手」であり、自身の言語は聞き分けることができても、他の言語は聞き分けられないのです。そこで疑問がわいてきます。いつ「グロバール市民」は、私たちのような「文化に縛られた聞き手」になってしまうのでしょうか?

答えは、最初の誕生日を迎える前、です。)

 

だけど、その後8ヶ月から10ヶ月のころから、自分がこれから使うであろう言語を判断し、その言語の情報を集めていくのです。

実験の中では、英語圏の赤ん坊と日本の赤ん坊の比較もされています。英語では r と l の使い分けは大事なので、たくさんその音を拾って集めていきますが、日本語のら行の音は英語の r と l の間のようなあいまいなもの。つまり、r と l の違いは日本語にとって重要な情報じゃないし、日常で使われていない。

だから、赤ん坊もその r と l の音のちがいの情報は取り込まず、どんどんその音を聞き分けるのは難しくなっていく。必要なものだけを、取り込んでいって、他の情報は切り落としていくんだなぁ。

 

So babies absorb the statistics of the language and it changes their brains; it changes them from the citizens of the world to the culture-bound listeners that we are. But we as adults are no longer absorbing those statistics. We are governed by the representations in memory that were formed early in development.

(赤ん坊たちは、言葉の統計にどっぷりと浸かり、それにより脳が変化を受けます。「グローバル市民」から「文化に縛られた市民」になるのです。大人になったあとは、このような言葉の統計に浸かることがなくなるからです。私たちは、初期の成長期から引き継がれた記憶によって、言葉を解釈しているのです。)

 

赤ん坊の頃のとても短い期間で、自分が生きてくために必要な音を判断して、その情報を脳に吸収して、その情報をその先何年もずっと使っていくのかぁ。

8 - 10ヶ月の頃がとくにこの音声の情報を集める期間になっているらしく、この間に取り込んだ音声は、 それまでの期間でずっと得て来た情報量と同等かそれ以上に値すると。

その他にも、その音声の情報もオーディオだけや TV上では取り込まず、生身の人からの情報でないとあまり効果がないとの結果もでています。

技術も進化していて、赤ん坊の脳の動きを見られる装置での実験も行われていたりと、まだまだ未知の部分はあるけれど、どんどん言語取得と脳の発達の関係の研究はこれから進んでいく。

 

"In investigating the child's brain, we're going to uncover deep truths about what it means to be human."

(子どもの脳について研究していくことで、人間であるというのはどういうことか、深い真理を解き明かそうとしているのです。)

 

こんな言葉で、スピーチは締めくくられます。 

 

3. 新しい言葉たち

  • celestial: 天空の、天上の(この世のものとは思えない程すばらしい)
  • puberty:  思春期、年頃の
  • lap: ひざ、安楽な場所、責任(比喩)

 

4. 感想

前に、共感覚について調べていたとき、「赤ん坊のときは感覚も全部つながっていて、大人になるにつれてどんどん効率よく働くように、カテゴリを作り出して、そこに当てはめるようになっていく・・・」という話を聞いた気がします。

言葉も、自分が使う音だけを聞けるように、こんなに小さいときに選んでるんだなぁ。

大人になってから、自分が聞き分けられない音を聞き取れるようになるには、人工的にその音をたくさん聞いて、情報を後天的に入れるようにするしかないのかなぁ。

言語における音声って重要な部分だもんなー。

その期間に音声の情報が入ってたら、そのあと話す機会がなくても、音声の情報は残るのかなぁ。これから、研究が進むにつれて分かることが増えていくんだろうなぁ。

そしたら、外国語学習の方法も変わってくるのかな。とても気になるトピックです。

 

5. スピーチについて

Patricia Kuhl: The linguistic genius of babies | TED Talk | TED.com

Event: TEDx Rainier 

Date: October 2010

Length: 10:10