ラオス・ビエンチャン国際映画祭(Vientianale International Film Festival )レポート
サバイディー。ラオスからこんにちは。
今回は、ラオス・ビエンチャンで行われたVientianale International Film Festival のなんちゃってレポートをお届けします。
ふらっといって見た1作目がすごく面白くて、そのあと週末用事の合間を縫いながら、入り浸りました。
雨がよく降る中での、映画三昧の週末。あーーーーーしあわせでした。
たぶん誰も書かないと思うので、感謝も込めて、書いていきます。
Vientianale International Film Festival
今回が7回目の開催となった、Vientianale International Film Festival 。
Department of Cinema と Vientianale というチームが主催で、ビエンチャン市内で3月22日から26日の5日間に渡って開催されました。
午前中の会場の Department of Cinema
企業や大使館、インターナショナルスクールなどがスポンサーになり、入場料や観劇料は全部無料という太っ腹な企画なのです。
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25カ国から、全40作品が上映されたり、国内向けのショートフィルムの上映・コンテストが行われます。それに加えて、映画関係のセミナー・ワークショップも開催されました。
午前中から昼間は、市内にある Department of Cinema内の小さな試写室で、夜はメコン川沿いにあたらしく出来たショッピングエリアの屋外特設ステージにて上映。
首都で行われているとは思えないくらい、こじんまりとしたイベントです。(もっと宣伝すればいいのに!!!!)
ラオスの映画事情
すこしばかりラオスの映画事情を。
ラオスには、あんまり映画の文化がないように思います。映画制作の文化もないし、映画館もない。
映画は、基本的にテレビで見るもの、もしくはyoutubeかマーケットで売ってる海賊版(タイから輸入?)、というのが大半だったのが、少しずつ変わってくのかなぁ。あ、不思議と、スパイダーマンとかアメコミ系はめっちゃよく知ってるな。
ラオスで国内作っている映画は、数えられるくらいしかない。でも、プライベートで映画会社を作る人も出て来たり、日本との協同作品も今年公開されたりと、増えてきているみたいです。
ビエンチャンには、1年前に、中国資本の大型ショッピングモールが出来て、その中にタイ資本の大きな映画館ができました。
それまでは、ちょっとさびれたショッピングモールに、古ーい映画館があったのですが、それも去年に新しくリニューアルされました。なので、今はビエンチャン市内に2つと、南部の街(たしか)パクセーにも、同じくタイ資本の映画館が1つ出来ました。ここでは、割と新作(この週末 The Beauty and Beastも合間に見ました!)もやっています。タイ映画(ホラーとコメディー多し)とハリウッド映画がメインで、いまいち見たい映画がないのが悲しいですが。
映画祭は、世界遺産にもなっているルアンパバーンでも毎年行われています。こちらの方が大きいし、有名です。あとは、今年初めて上記のリニューアルされた映画館で日本映画祭も行われました。
https://www.cias.kyoto-u.ac.jp/~yama/film/Images/cineadobo2015_103.pdf
あるアジア映画の始まりーラオスの過去と現在/ソン・オク・スティポヌ(1994-1995)
映画祭ラインナップ
そして今回の映画祭の、プログラムを載せておきます。
Wed, 22 March
- Life Animated
- April and the Extraordinary World
- Sing Street
- Opening Ceremony
- Redemption
- Love Forever
Thur, 23 March
- Reach for the Sky
- The Cinema Travelers
- Interfilm Shorts
- The Red Turtle
- Room
Fri, 24 March
- Sacred
- Boy and the World ★
- The Assassin
- THe Wandering ★
- Paper Planes
Sat, 25 March
- The Lobster ★
- Diamond Island ★
- Birdshot
- My Life as a Zucchini
- Captain Fantastic
Sun, 26 March
- Baby (A)lone
- KUKI Shorts ★
- Vientianale Shorts ★
- Dance Performance: My Journey
- Vientianale Awards 2017
★マークが、私が見に行ったものです。この先は、見に行った映画の感想を、つらつらと書いていきます。
★The boy and the world / 父を探して (ブラジル)
「ブラジルのアニメーション」ということしか知らない状態で見に行きました。
絵的に「子ども向けのアニメなのかな?」なんて思って行ったら、まぁびっくりびっくり。めちゃくちゃ面白かったです。この映画みて、今回のフィルムフェスティバルで他の映画も見よう!と思いましたもん。
まずは、絵がすごい。手書きとデジタルが組合わさった作品で、動く絵本の中に入り込んだのよう。消しごむのカスっぽいものや、えんぴつがぼやけた所まで見える。
白い紙に、えんぴつや絵の具、でどんどん世界が生まれていく。平面なのに、どこまでも世界が進んでいく。シンプルな線が印象的。主人公もほぼ棒人間だけれど、その動きと世界の動きで感情が伝わってくる。
そして、色合いもすごくきれい。稲の色から、空の色。淡い色と極彩色。Visual Treat です、本当。ブラジルの空はこんな色なのかなぁと想像が広がる。
音も、ストーリーに合わせた音楽やパーカッションのリズム、笛の音がちりばめられている。
絵と音が、機械的じゃないというか、「人がつくったものだ!」というのが伝わってきて、なつかしみ、あたたかみ、おかしみ、みたいなものがある。
絵、色、音、町並み、綿たちから、ああブラジルってこんな国なのかなぁ、それにしてもこんな映画がつくれるなんて、ブラジルすごい!と、一気にブラジルの株(なんだそりゃ)が上がりました。
ストーリーは、ざっくり言ってしまうと、出稼ぎにいったお父さんを追いかけて、男の子が郊外にある家を出て色々な世界を見る・・・というものですが、台詞がほぼない(あっても何言っているのか分からないようになってる)映像と音だけで、ストーリーは展開していきます。
父との別れという切なさがずっと根底にありながら、新しいものに出会う喜びやわくわくが、出会う人のふとした優しさが色とリズムに彩られながら描かれていって。
それと同時に、今まで見たことのない巨大な世界の不気味さや、そのパタパタとどんどん動いていく世界にどうしようもなく流されていく、飲み込まれていく人たちの不条理が混ざり合っていく。
過去から未来へ(村での暮らしから、単純労働、工業化社会、戦争、デジタル化)と向かって進んでいるのだと思っていたストーリーが、最後の最後にひっくりかえされて、
「あーーーーー!そうだったのか。たしかにそうだわーー」と、驚きと納得が沸いてくるころに、しゅーーーっと終着します。
ああ、すごく面白かった。何度もみたい。絵が描きたくなる。
予告編動画。メイキングも見ちゃった。
★Wandering / ワンダーリング(タイ)
こちらは夕方19時から、メコン川沿いにできた新しいショッピングロードに設置された、屋外シアターで放映されました。
ディレクターが来ていてあいさつをしたのですが、ラオス人の司会の人とぐだぐだなMC。ラオス語とタイ語と英語がめちゃくちゃで、お互いに笑っちゃってぜんぜん何言ってるかよくわからん(笑)
直前まで雨が降っていたのもあり、ガラガラ・・・
そんな何だか陽気なディレクターでしたが、映画は随分と静かな映画で意外(?)でした。
タイの田舎町。息子を亡くした、そして妻に逃げられた(たぶん)中年の男が、自暴自棄、アルコール中毒になり、ただぶらぶらと町中を歩く(wandering)日々を過ごしている。そんな中、若い僧に出会い、自らも僧になることを決める。
最小限の台詞で、音楽もなく、ただただゆっくりと1つずつ進んでいく。どこかドキュメンタリーのような静かな映画。
ストーリーにも大きな波があるわけじゃなく、淡々と進んでいく。正直途中で飽きちゃってました。。。
タイの田舎の風景(山中のお寺きれい)が見れたり、僧になるための儀式が丁寧に描かれていたり、日常の托鉢の風景などが見れたのはよかったなぁ。
それにしてもタイの映画は、お寺やお坊さんがテーマの映画がたくさんあるし、他の映画にもよく出てくる。それなしには、タイの日常は描けないのかな。
そしてこんな風に、何もかもが嫌になったときに、お寺っていう身近なセーフティーがあったら、救われる人がたくさんいるんだろうなぁなんて、思いました。
今まで映画館で見たタイ映画は、3本。ドロドロの不倫もの、お坊さんもののブラックコメディー、そして今回の映画。
みんなジャンルは違うけれど、タイ映画とは相性が悪いのか、1度も「おもしろかったー!」と思いながら見終えたことがないんだよなぁ。。。
タイ映画、なにかおすすめがあったら教えて欲しいです。
★The Lobster/ロブスター (ギリシャ・アイルランド・オランダ・イギリス・フランス)
これまた前情報がないまま、ふらっと見に行きました。お客さんは、欧米人多し。
ジャンルは、drama, romance, comedy。なるほど、なるほど。
主人公の男性は、妻に捨てられたあと、変なホテルに向かいます。そこでは45日以内に恋人見つけられないと、動物に変えられてしまうというルールがあります。ただその動物は、自分で選ぶことが出来て、主人公はロブスターを選びます。
(映画を見終わったあとに知ったのですが、社会全体でパートナーがいない人たちは、人間として認められないという近未来・・・という設定だったのです。最初は主人公が、自主的にホテルに行ったのかと思ってた。)
その他にも、理不尽なルール(左手だけ拘束される、森に行って人を狩ると滞在日数が増える)や滑稽な性教育のプログラムが行われながら、滞在者たちは必死に「共通点」を頼りにパートナーを見つけようとしていきます。
見ているときは「動物に変えられる位なら、なんでさっさと恋人つくらないんだろう?」「なんでそんなに共通点が大事なの?」と思っていたのですが、もちろん程度は違うにせよ、現実でも同じか、とあとから思う。選べなかったり、選り好みしたり、選ばれなかったり。無理したり、ちょっと嘘ついてみたり。
ルールに従わない人があっさりと、消えていく、消されていく中で、主人公はホテルを脱出し、独身者たちが身を隠す森のコミュニティへと入ります。しかし、ここでも理不尽なルールが待っています。また逃げられない。
リーダーは、ただ1人の女なのに、そのコミュニティのルールと管理の中で、怯えながら生きなきゃいけない。「恋愛しちゃだめ」というルールの森で、同じ近視である女性と恋に落ち、またこの森を脱出し、街へと向かっていきます。
最後は「意地の悪い」エンディングで、主人公の選択は観客に委ねられます。
見ながら、「あーー死ぬって怖い」「でも生きてくのも怖い」って思いました。ルールや保障がない中サバイバルする、誰も助けてくれない中、1人で生きるってこんなに大変。でも absurd (ばかげた)ルールの中で、ぜんぶを決められて合わせて生きてくのも、無理。死ぬ。私たちは今この間にいるんだなって思った。
love。恋愛すること。1人を選び合って結婚すること。一緒に生きてくって決めること。社会の1部として。ステータス。義務。はかないかもしれないけれど、頼るしかない。賭けなのか、決意なのか。信頼。盲目。本物・・・?
シュールで、ブラックなジョークがたくさん盛られた映画ですが、あとから色々と考えさせられます。おもしろかった!
予告編
★Diamond island /ダイアモンド アイランド (カンボジア)
午後は、はじめてのカンボジア映画。
映画の中で兄役を演じる俳優さんが会場に来てたのですが、上映前に一言、と言われて、"Nothing to say…"と困ったようにいっていて、
折角来たのにないのかい!準備しないのか!と思わず笑ってしまう。(上映後のQ&Aでは、色々話していたそうです)
フランス系のカンボジア人が監督の、実在するダイアモンド アイランドを題材にした映画。首都プノンペンの東に位置する小さな島が、「ダイアモンド アイランド シティ」という未来都市計画の中で、色々な希望を背負いながら、どんどん開発されている。
主人公は、農村部から、ダイアモンドアイランドの建設現場に出稼ぎにきた少年。
肉体労働の辛さ・・・みたいなのは、あんまり描かれていなくて、それよりも夜のネオンの安っぽいけれどどこか高揚するような輝き、どれだけ "cool kids"になれるか競うような仲間とのくだらなくて楽しい日々、あか抜けたミステリアスな兄との再会、女の子とのじれったいそわそわとした出会い、家族への心配と思いやり。
辛さや厳しさももちろんあるんだろうけれど、どこか甘さのようなものの方が強く感じた。
ダイアモンドシティで生まれ育った女の子と、ブランコをこぎながら、"It's developed." と嬉しそうな笑顔で言い合うシーンが印象的だったなぁ。あとバイクでの口説き方のくだりの、観客の共犯的な笑いが楽しかった。
田舎から出稼ぎにきて、街で色々なことを知っていく・・・という普遍的なストーリーかもしれない。
シャイで素朴な少年の目線を通して、見るダイアモンドシティとそこで暮らす人たち。言葉(台詞)ではあまり多く語られないし、特に大きな事件があるわけじゃない。
変わりゆく街の、そこでその時間を過ごす人たちの空気感や、気持ち、一瞬を切り取ったような、映像。よいも悪いもなく。
変わりゆくことへの、よりよいくらしへの希望。自由。期待。新しい関係。甘さ。自分じゃ変えられないことの多さ。やるせなさ、不安、あきらめ。1人の人生の、人とのつながりのもろさ。よいも悪いもなく。ダイアモンド アイランド。
監督のインタビューから。
「ダイアモンド・アイランド」を見たときに、まず、映画的に面白い風景だと思ったのです。欧風の建築物が立ち並び、ドバイのような雰囲気もある。すべてがにせもののような感じで、ハリウッドの映画スタジオの中に立っているようだったのです。実際に足を運ぶと、若い青年が建築現場で働いていて、夜になると、彼らはおしゃれをしてバイクを乗り回している。彼らの目が、まるで夢を見ているようにキラキラと輝いているんです。彼らは一体、何を見ているのだろうと。彼らの目の中には、欲望や願いが込められており、その源は何かが知りたいと思ったのです。
出演している人たちは、ほとんどが監督がダイアモンド・アイランドで声をかけた「キラキラとした目をもった」素人だそう。主人公の少年も、ダイアモンド・アイランドで働くタクシードライバーの青年。ほーーー。すごい。
不自然に豪華な近代建物。建設中の大型ショッピングモール。どこかラオス・特にビエンチャンにどこか面影を重ねながら、見ていました。
でも、ラオス人でこういう肉体労働している人ってあんまりいない、というか出会ったことがない気がする。こういう仕事は、ラオス人から低く?見られているというか、自分たちの家は自分たちで建てるけど、大型のショッピングモールやホテルの建設は、中国人やベトナム人ががっつり入ってやってるイメージ。どうなんでしょう。
ビバ映画祭!
思えば、映画祭にいくのってこれが初めてでした。(あまり映画祭!って感じはしないけれど・・・)もっと早く行って、もっともっと見たかったなぁ。
色んな国の映画を、見るのって新鮮。もっと色んな国の映画を見てみたい。
普段は自分が選んでは見ないような映画をみてみる、なんの前情報もないなか、見に行ってその世界に浸ること。
このランダムな出会いが面白かったー!この映画祭がなければ、どれも見なかったものばかり。当たり前だけれど、映画祭のために選ばれた映画はみんな、基本的にクオリティーが高くて、おもしろいものなのだなぁ。
無料で、こじんまりと、おもしろい映画に出会える ビエンチャン国際映画祭でした。
なくなってしまわないように、ビエンチャンにいる際は是非、いってみてください!